英国ロイヤル・バレエ団の2020年2月の新作「ザ・チェリスト」。世界各国から引っ張りだこのキャシー・マーストンの振付です。

男性ダンサーが楽器のチェロを演じています。

日本でも映画館で公開される予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で公開が延期となっていました。そんな中、英国ロイヤルバレエ団のyoutubeで「ザ・チェリスト」の動画配信が行われています。

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今回は悲劇「ザ・チェリスト」の創作過程とジャクリーヌ・デュ・プレをご紹介します。

※文章だけなら3分ほどで読み終わる記事です。この記事を読むと「ザ・チェリスト」の創作過程とジャクリーヌ・デュ・プレの人生がわかります。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり。ぜひ男性にもバレエを観に行ってもらいたいと思っています。

振付家キャシー・マーストの新作

現代を代表する振付家のキャシー・マーストが天才チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯と音楽への愛を描いた作品をつくりました。

主人公ジャンクリーヌ・デュ・プレ役は、プリンシパルのローレン・カスバートソンです。ローレン・カスバートソンは実際のジャクリーヌ・デュ・プレに風貌を似せています。「ザ・チェリスト」はローレン・カスバートソンのために振り付けられています。

ジャクリーヌ・デュ・プレと結婚する指揮者ダニエル・バレンボイム役にプリンシパルのマシュー・ボール。そして、楽器のチェロを、プリンシパルのマルセリーノ・サンベが演じます。

特に感動するのが、バレンボイムの指揮、ジャクリーヌ・デュ・プレがチェリスト、ダンサーがオーケストラを演じるシーンです。音楽が視覚的に動き回ります。音の高低や、柔らかい音、硬い音が目の前で飛び回るシーンは必見です。

キャシー・マーストンは2017年デンマーク王立バレエ団に「Dangerous Liaisons」という作品を振り付けています。この作品でもチェロのシーンが登場し、楽器をダンサーが演じています(下の映像14秒の部分)。キャシー・マーストンは小道具を使わずに、チェロを身体で表現する方法を発見します。

この時はたった30秒という短い時間だったそうですが、チェロという楽器を見事に表現できたという実感があったようです。

チェロという楽器は、抱きかかえて演奏し、振動がカラダにしっかり伝わってきます。そして人間のようなくびれがあり、その音は人間の声のようにも聞こえる音程です。だからこそ、人間がチェロを演奏するのに適していると考えたようです。

ザ・チェリスト

「ザ・チェリスト」は55分の作品で、21のシーンがあります。1つのシーンが2分から4分なので、物語がどんどん展開していきます。

「自分で才能を見つけるのか、才能の方が自分をみつけるのか。」このテーマをもとにジャクリーヌ・デュ・プレの愛と喪失を描いています。病気により才能が失われていく状況はかなり残酷です。もちろんジャクリーヌ・デュ・プレにとってもつらい状況ですが、チェロにとっても自分をひいてもらえない状況が生まれてしまいます…。

ジャクリーヌ・デュ・プレはスキャンダラスな人生を送っているのですが、この部分は排除され、チェロとジャクリーヌ・デュ・プレの関係性に焦点があたっています。

ジャクリーヌ・デュ・プレとは?

主人公であるジャクリーヌ・デュ・プレは1945年、イギリスで生まれます。わずか10歳で国際的なコンクールに入賞。国際的な名声を得ていきます。ですが、多発性硬化症(MS)という病気により26歳ごろから苦しみ始め、28歳で引退します。病名がわかるまでかなりの苦悩があったようです。そして、42歳でその生涯を閉じています。

多発性硬化症(MS)

多発性硬化症は英語で“Multiple(空間的・時間的に多発する)Sclerosis(硬化)”といい、その頭文字をとって“MS(エムエス)”と呼ばれます。

人により症状がちがいますが、身体の一部に障害がでることが多い病気です。

ジャクリーヌ・デュ・プレの場合、身体のしびれによりチェリストの引退を余儀なくされました。

カラダ全体を使って情熱的に演奏するジャクリーヌ・デュ・プレは賛否両論ありました。ですが、演奏の才能は誰もが認めていて、衝撃的なチェロの演奏は記憶に刻みこまれます。ジャクリーヌ・デュ・プレの映像が残っているのでご紹介します。

ジャクリーヌ・デュ・プレの代表曲であるエルガーの「チェロ協奏曲」の映像です。

この映像で指揮をつとめているのが、ジャクリーヌ・デュ・プレと結婚したバレンボイムです。

ちなみに、ジャクリーヌ・デュ・プレを題材にした「本当のジャクリーヌ・デュ・プレ」という映画が制作されています。この作品はジャクリーヌ・デュ・プレの姉と弟が書いた「風のジャクリーヌ」という本から映画化されました。主演のエミリー・ワトソンはアカデミー賞の主演女優賞でノミネートされています。

この作品では、ジャクリーヌ・デュ・プレのかなりスキャンダラスな人生が描かれています。姉の夫との不倫。夫のバレンボイムは結婚中でありながら、パリでロシア人のピアニストと二人の子供がいたこと。などなど…。

この2つの作品は暴露的な内容が含まれていて、どこまでが本当のことかは実際にはわかりません。

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ただ、どちらの作品をみても、僕はジャクリーヌ・デュ・プレの評価が落ちるものではない、と思いました。

ジャクリーヌ・デュ・プレとバレンボイムの、こんな仲良さそうな映像もあります。ドカっと座って情熱的に演奏するジャクリーヌ・デュ・プレの姿がとてもかっこいいです。

制作にあたり

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ロイヤル・バレエ団が出しているyoutubeの映像と、いろいろな記事、僕の感想を合わせています。

キャシー・マーストンは「ザ・チェリスト」をつくりにあたりドキュメンタリーや演奏の映像、伝記などありとあらゆる作品を脚本家のエドワード・ケンプと漁っています。

また、ジャクリーヌ・デュ・プレの旦那さんだったバレンボイムにインタビューを行っています。バレンボイムはこの作品にはかなり前向きだったそうです。

そして、キャシー・マーストンのお母さんが多発性硬化症のため、かなり参考にしたと語っています。そして尊敬を持って振付することに努めたそうです。多発性硬化症に関しては、身体的な障害の部分に焦点をあてるのではなく、「多発性硬化症であることの感覚」に焦点をあて表現しているとのことです。

ポイントとなるのはマルセリーノ・サンベが演じるチェロです。「ザ・チェリスト」ではジャクリーヌ・デュ・プレとの楽器の関係に光があたっています。本来、楽器には魂がありませんが、ジャクリーヌ・デュ・プレがチェロを愛し、それにチェロが応えます。

チェロは時代を超えて引き継がれていて、楽器には魂がこもっています。その表現方法がとても豊かで、ジャクリーヌ・デュ・プレの楽器の音色の豊かさを表しているかのようです。

群舞に関しては、ダンサーたちがシーンごとにさまざまな役を演じています。学校の同級生のこともあれば、オーケストラを演じることもあり、コンサートの観客になることもあります。

リハーサル映像

ダンサーと振付家が一緒に創作する過程が見れます。古典の作品からはなかなか生まれない、現代的なアプローチによって作品が完成していきます。

振付のキャシー・マーストンがかなり語ってくれていて、説得力があります。


マルセリーノ・サンベのワキ汗がちょっと気になります…。笑

9:13~
ジャクリーヌ・デュ・プレの最初のコンサートを描いた場面です。はじめて彼女が観客と心を通じ合わせることができたシーンです。

50:00~
20番目のシーン。ジャクリーヌ・デュ・プレがコンサートでMSを発症してしまう場面です。キャシー・マーストンがローレン・カスバートソンにどう演じるかを聞くと、ローレン・カスバートソンは感極まって涙をみせます。ローレン・カスバートソンが伯に入り込んでいるのがアリアリとわかるリハーサルです。

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以上、「ザ・チェリスト」の作品の成り立ちとジャクリーヌ・デュ・プレについてでした。
ありがとうございました。