フライトパターンは2019年観た作品の中で1番でした!

2020年、新型コロナウイルスによって大ダメージを受けた芸術。そして「芸術に意味があるのか」と問われています。

クリスタル・パイトという、群舞をケモノのように操る振付家がいます。彼女の作品への取り組み方がこの答えのような気がします。

我の強いダンサーが集まったとしても、同じ思いを持って踊ることで、凄まじいパワーが生まれます。

この「フライト・パターン」をみると、芸術には人を結びつける力があるんだ、と思い知らされます。

kazu

今回は「フライト・パターン」の作品解説と感想です。

※3分ほどで読み終わる記事です。(youtubeの映像が5分ほど途中あります)この記事を読むとクリスタル・パイトのことがよく分かると思います。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり。ぜひ男性にもバレエを観に行ってもらいたいと思っています。

クリスタル・パイト振付「フライト・パターン」ロイヤルバレエ団

映画.comより

「フライト・パターン」のあらすじ

32分の作品です。

「フライト・パターン」は、戦乱から逃れようと困難な旅を続ける難民たちの姿を描いています。

制作

【振付】クリスタル・パイト
【音楽】ヘンリク・ミコワイ・グレツキ
【指揮】ジョナサン・ロー

初演:2017年

【出演】
クリステン・マクナリー、マルセリーノ・サンベ
カルヴィン・リチャードソン、ジョセフ・シセンズ
イザベラ・ガスパリーニ、ベンジャミン・エラ、アシュリー・ディーン

(ソプラノ)フランチェスカ・チエジナ

クリスタル・パイト

カナダ・バンクーバー出身の女性振付家であるクリスタル・パイト。

自分のカンパニーKidd Pivotを主宰しています。ウィリアム・フォーサイスの元でダンサーとして活躍後、ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)在籍時に振付を開始。社会的な問題を扱う振付家で、NDTではアソシエイト・コレオグラファーを務めています。

それだけでなく、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場、カナダのナショナル・アーツ・センターのアソシエイト・アーティストも務めています。

パリ・オペラ座バレエ団、英国ロイヤル・バレエ団にも新作を提供しています。2015年、ローレンス・オリヴィエ賞で「最優秀ダンス賞」を受賞します。この賞はイギリスでもっとも権威のある、演劇・オペラに与えられる賞です。イギリス版トニー賞と言われています。

ローレンス・オリヴィエ

イギリスを代表する俳優で、1970年にSIR(男爵)の称号を与えられる。1989年7月11日、腎不全のため死去。

アカデミー賞に10回(主演賞9回、助演賞1回)ノミネートされ、1947年と1979年にはアカデミー特別賞を受賞。

存命中の1976年にローレンス・オリヴィエ賞が設立されました。

2017年パリ・オペラ座に振り付けた「シーズンズ・カノン」がブノワ賞(バレエ界のアカデミー賞)を受賞。

クリスタル・パイトの作品では、ダンサーたちの一体感がケモノのようになります。ダンサーがいっせいに踊ると波のように襲ってくるような錯覚におちいるほどパワーがあります。これは「フライト・パターン」に限らずどの作品でも共通していて、群舞のスゴさを再認識する振付家です。

ローレンス・オリヴィエ賞

「フライトパターン」はローレンス・オリヴィエ賞で2018年「最優秀新作ダンス作品賞(Best New Dance Production)」を受賞しました。

授賞式では、プリンシパルのマルセリーノ・サンベとキャラクター・プリンシパルのクリステン・マクナリーが出席しています。プレゼンターはバレエ界の異端児である、もともと英国ロイヤル・バレエ団でプリンシパルだったセルゲイ・ポルーニンです。

音楽はグレツキ作曲、交響曲第3番「悲歌の交響曲」第1楽章

ポーランドの作曲家、ヘンリク・ミコワイ・グレツキによる作品です。第3楽章まであり、「フライト・パターン」では第1楽章が使用されています。楽章ごとに副題がついています。

悲歌の交響曲

第1楽章「私の愛しい、選ばれた息子よ、自分の傷を母と分かち合いたまえ…」
第2楽章「お母さま、どうか泣かないでください…」
第3楽章「わたしの愛しい息子はどこへ行ってしまったの?…」

第2楽章はナチス時代、ユダヤ人の収容所の壁に書かれた娘から母への言葉がもとになっています。「フライト・パターン」で第2楽章は使用されていないものの、作品の内容とかなりマッチしていると思います。

ひたすら繰り返される音楽

コントラバスの深い音から始まり、同じフレーズがひたすら繰り返されます(カノン形式)。ですが楽器がどんどん加わることにより印象が変わってきます。低いコントラバスから始まった音に、チェロ、ビオラが加わり、ヴァイオリンの高音が重なると、美しい音楽に!!

そして、ソプラノ歌手のソロが入ってきます。

kazu

映画でバレエを観た時、指揮者のジョナサン・ローの幕間の解説がとてもわかりやすかったです。

群舞の持つパワーの素晴らしさ

途中、ソロがあるので、キャスト表ではメインの何名かがピックアップされていますが、この作品は36人のダンサーが同列の作品です。

作品のテーマが重いのですが、それ以上にダンサー36人で創り出す圧倒的な世界観に惹き込まれてしまいました。

昔絵本で読んだ小魚のスイミーのように、36人が息をぴったりに合わせて踊ると、獣のような「うねり」を生み出します。バレエダンサーはが強いものですが、クリスタル・パイト作品に参加しているという意識の高さは素晴らしいです。観ている間ずっと鳥肌が立っていました。

振付家のクリスタル・パイトのインタビュー

クリスタル・パイトのとても素敵なインタビューで、彼女の人柄の深さを感じます。意訳ですが、全訳しています。

私はこう感じるんです。私には作品を創作することでしか今の社会問題について対処する方法がないと。 

この作品は音楽の選曲から始めました。選んだのは、グレツキ作曲の交響曲第3番「悲歌の交響曲」の第1楽章です。というのも、私を含め人間は日々の生活で忙しすぎると感じ、この作品を選びました。

忘れがちですが、世界のどこかでは人道的危機も起こっているし、難民の問題が起こっています。グレツキの曲を聴いたときに、難民問題を正しく表現できるうつわだと感じたからです。

作品名の「フライト・パターン」には2つの意味があります。私は、特に「フライト(flight)」という言葉に惹きつけられました。1つ目の意味は「逃げるのが不可能である困難な状況から脱出すること」、2つ目は「希望や可能性、自由を求めること」。

ダンサーは36人ととても多いです。全員がとても素晴らしく誠実に作品と向き合っています。今おこなっているのは、振付をもう一段、二段と昇華させる作業で、限界を押し上げていく作業です。

これは群舞の作品といえます。ダンサーそれぞれ個性がありますが、36人も集まると、まるで1匹の大きな獣のようになるのです。ダンサーが個性的であると同時に、気持ちをひとつにすることで36人が一体になる瞬間があり、感動してしまいます。

この作品をつくるうえで、とてもおもしろいのは、どう大きなグループの気持ちをそろえていくかという点です。振り付けでは、タイミングや、踊りのスピードすべてを調整していきます。

でも完璧にできているかというとまったくそういう訳ではありません。ただ振付師なのでそれを表に出すことはできません。内心はパニックになっていることもあるし、どうしたらいいかわからないこともよくあります。

それでも私は自分の才能を信じています。何か新しいものを作るときは、自分の弱さを見つめなければいけないし、不安定にもなるし、とてつもなく不安になることもあります。

私は作品を作る際、振付だけでなく、すべてに関わりたいと思っています。というのも、他の分野の人たちと一緒に作り上げることがとにかく大好きだからです。

芸術とは人間らしさを常に持ち続けるために必要なものだと思っています。人々をつなげるものであってほしいし、コミュニケーションを促すものであってほしいです。

この作品はとても政治的ですが、「人生において押し潰されそうになったときにどう対処するか」という思いを込めています。私自身、日々のプレッシャーに対処できているかはわかりません。でも一日の終わりにダンスを通してものごとを考えると、希望を感じるのです。ダンスを通して世界を見ると、物事がとてもはっきり見えるのです。

だから、私は作品づくりを続けていくのです。

現代芸術としてのバレエ

息をひそめながら、じっくりと見る作品です。バレエでここまで重いテーマを扱うことはかなり珍しいです。

36人のダンサーが同じ思いを持って踊る一体感がすごい作品でした。振付のクリスタル・パイトにダンサーが敬意を払い、全員が彼女の作品を表現することを第一に考えている作品だと思いました。

ダンサーひとりひとり、しっかりと個性があります。ですが、全員が一緒に踊ると、ひとつの波のような迫力があり、1+1=2ではなく、1+1が2以上の質を生み出しています。

kazu

クリスタル・パイトのメッセージが痛いほど伝わる名作です。かなりおススメの作品です!!
どうもありがとうございました!!