2020年、新型コロナウイルスに関連し、日本をふくめ世界中のバレエ団が現在ストップしています。それにともない、世界中のバレエ団が無料で動画を配信しています。

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K-Balletカンパニーの熊川哲也さんが「若者と死」の動画をアップしました。全世界に衝撃を与えた作品です。

この20分の作品である「若者と死」をご紹介します。

※5分ほどで読み終わる記事です。「若者と死」の作品解説と踊ったダンサーをご紹介します。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり。ぜひ男性にもバレエを観に行ってもらいたいと思っています。

ローラン・プティ作の「若者と死」のあらすじと解説

若者と死

若者がもつ死への「感覚」を表現したこの作品。

この作品がつくられた1946年は第2次世界大戦の影響が色濃く残っていました。第2次世界大戦では、おおくの若者が命を落としました。若さと死は対局であるはずなのに、この時代は若さと死がとても近い位置にありました。

死をどうとらえるかとてもむずかしい作品です。暗くも感じ、希望にも感じます。この作品では閉塞感からの開放を表現しているようにも感じる作品です。

あらすじ

ジャン・コクトーの台本をそのまま引用します。

とある屋根裏部屋、若い男が独りで待っている。
そこに乙女が入ってくる。
彼女こそが彼の不幸の原因なのだ。
彼は身を投げ出す。
彼女は彼を押し戻す。
彼は哀願する。
彼女は彼を侮辱し、嘲笑し、その場から立ち去る。
彼は首を吊る。

部屋が消えていく。
吊られている身体のみが残る。
屋根を伝って「死」が舞踏服で現れる。
仮面を外すとそれはあの乙女である。
そして、犠牲者の顔に仮面を被せる。

二人は一緒に屋根の向こうに歩み去る。

振付:ローラン・プティ
台本:ジャン・コクトー
音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ「パッサカリアとフーガ」
美術:ジョルジュ・ヴァケヴィッチ
衣装:カリンスカ

約18分の作品です。

作品の流れ

屋根裏の部屋でタバコをふかすひとりの青年。部屋の雰囲気から画家であることがわかります。椅子やテーブルが乱雑に置かれ、屋根の梁からは一本のロープが垂れています。

若者は行き詰まりを感じ自分を追いつめていきます。うちに秘める絶望、苦悩、孤独、悲しみ、狂気が踊られます。

そこにファム・ファタール(男を破滅させる女)である黄色いドレスの女が登場。最初は甘い雰囲気をもっている黄色いドレスの女ですが、しだいに若者を拒絶。足蹴にされる若者。それでも女を追ってしまう若者。

女は梁に下がるロープを輪っかにむすび、若者に無理やりロープを見せつけます。そして、部屋から去ってしまいます。

青年は怒り、椅子をなぎ倒しながら踊ります。ロープに吸い寄せられるように近づく若者。そして自ら首を吊ってしまいます。

いつの間にか部屋の壁がなくなります。絞首台と若者の死体がパリの夜景に浮かび上がります。そこにドクロの仮面と白いドレス、赤いベールをつけた女が登場。仮面を外すと、そこにはさきほどの黄色いドレスの女の姿が・・・。若者にドクロの仮面をつけ、そのまま死後の世界にいざないます。

バリシニコフにより世界的な作品に

1985年に公開された映画「ホワイトナイツ」のオープニングで、ミハイル・バリシニコフが「若者と死」を踊ります。映画のためにローラン・プティが再度振付を行いました。映画のなかでは劇中劇として使われ、5分ほどに短縮されています。

ホワイトナイツは自由を求めソ連から亡命したロシア人の話です。8年前に亡命したソ連のスーパーバレエダンサーが日本公演に向かう途中、飛行機のトラブルでソ連に不時着してしまいます。

この「若者と死」は「ホワイトナイツ」の内容にシンクロしていて、この映画のためにつくられたんじゃないかというくらい、テーマに合っています。


White Nights – Mikhail Baryshnikov – Le Jeune Homme et la Mort

ミハイル・バリシニコフの名前をさらに広めた作品です。主題歌であるライオネル・リッチーが歌う「Say You, Say Me」全米シングルチャートが1位になり、アカデミー賞の歌曲賞も受賞。ここで主演のミハイル・バリシニコフ、グレゴリー・ハインズの踊りもPVになっていました。

 

この「若者と死」はミハイル・バリシニコフの荒々しい個性、スーパーテクニック、演技力をみることができます。そしてミハイル・バリシニコフは実際にソ連から亡命しています。この事実も作品に深みをあたえています。ミハイル・バリシニコフの代表作となりました。

個性が光るバレエ

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若者役は男くさい個性を持ちながら、少年のような面をもつダンサーが選ばれているように思います。

初演はジャン・コクトーが「現代のニジンスキー(バレエ界に革命をもたらした男性ダンサー)」と称した、ジャン・バビレのために振り付けられました。

その後、ルドルフ・ヌレエフ、ミハイル・バリシニコフ、パトリック・デュポン、熊川哲也、ニコラ・ル・リッシュ、イワン・ワシリーエフといった時代を代表する男くさい男性ダンサーによって踊られています。

また、リハーサルはローラン・プティが立ち会い、ダンサーに合わせ微妙に振付が変わります。超絶技巧のピルエットを持つミハイル・バリシニコフと熊川哲也はその才能を存分に発揮させる振付となっています。

女性ダンサーも同様に、艶めかしさ、妖艶さが求められる難解な役です。ふだんのバレリーナ像とは違います。スタイルの良さ、足のきれいなラインを含め、どれだけ魅力的なバレリーナ像を出せるか、というチャレンジングな役です。

たったふたりで踊られる18分の重厚な時間です。

振付時は違う音楽だった

「若者と死」は、ローラン・プティがわずか22歳のときに発表した作品です。台本は、詩人、小説家、劇作家、評論家であるジャン・コクトーによるもの。

「若者と死」はジャン・コクトーとローラン・プティの共作といえると思います。というのもジャン・コクトーはローラン・プティに数々のアドバイスを与え、ローラン・プティは作品に取り入れています。

例えば、音楽の使い方がかなり独特です。バレエに限らずダンスはふつう、曲に合わせて振付をしていきます。ですが、この作品はジャン・コクトーから「まずインスピレーションを与えてくれる曲で振付をするべきだ」と提案がなされます。

そのため、「若者と死」は完成時のバッハ作曲の「パッサカリアとフーガ」ではなく、ジャズの音楽に振り付けられました。そして、上演の数日前に「パッサカリアとフーガ」に差し替えられました。初演を踊ったジャン・バビレは、音に合わせて踊っていないとインタビューで答えています。

また、ジャン・コクトーは「動きを3回繰り返す」ということも提案しています。ジャン・コクトーはこう表現しています。「観客は、動きの1回目は目に入っているだけ。2回目で動きを見ることができ、そして3回目の動きで認識する。」

ローラン・プティ作品の持つエスプリ

エスプリとは「フランス人の持つ知的でおもしろい精神」のことです。ローラン・プティの作品ではこのエスプリを感じることができます。「若者と死」ではそのファッションから見て取れます。黄色いドレスの女の衣装がとてもビビッドで、ウィッグと黒いロンググローブがとてもおしゃれです。

ニコラ・ル・リッシュ

個人的には元パリ・オペラ座バレエ団のニコラ・ル・リッシュとマリ=アニエス・ジロ版が好きです。僕はニコラ・ル・リッシュが大好きで、日本公演も多くドンピシャで観ていました。

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ニコラ・ル・リッシュ版のDVDも持っています。

そしてニコラ・ル・リッシュのサインも持っています。

ニコラ・ル・リッシュはローラン・プティにとって創作の源にもなっていて、彼のために振り付けられた作品もあります。

ぜひ見比べてみてください。


Le Jeune Homme Et La Mort

K-Balletカンパニー「若者と死」

今回「若者と死」の記事を書こうと思ったのは熊川哲也さんが映像を公開したことにあります。

3/31まで特別公開で現在は公開停止になりました。英国ロイヤル・バレエ団で一緒に共演していた熊川哲也さんとダーシー・バッセルの動画です。

ミュージカル「コンタクト」にも黄色いドレスの女が

ここからはずーっと気になっていたことです。

ミュージカルで「コンタクト」という作品があります。スーザン・ストローマン作の「コンタクト」は3つのストーリーからなっています。最後の話に「黄色いドレスの女」が登場します。

主人公は人生に行き詰まった中年の男性で、自殺を考えています。そこに登場する黄色いドレスの女。僕は、最初にコンタクトを見た時、「若者と死」を思い出しました。


Contact – “Simply Irresistible” (2001) – MDA Telethon

ただコンタクトの場合はストーリーが逆になっています。人生に絶望した中年の男性が希望を取り戻していく構成です。

これは「若者と死」に対するスーザン・ストローマンの一種の回答のように思います。「コンタクト」は劇団四季が上演権を持っています。あまり上演されることは無くなってしまいましたが、とてもおすすめの作品です。

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今回は、バレエ「若者と死」のあらすじと解説でした!

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