英国ロイヤルバレエ団の大人向けバレエ「マイヤーリンク(うたかたの恋)」。

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このバレエはバレエ鑑賞としては上級者向けです。

というのもバレエのイメージとは180°逆の作品だからです。

人間のドロドロした部分を描き出す、とてもめずらしい作品です。いきなりこの作品をみるのはあまりオススメしません。ですが、とーっても素晴らしい作品です。今回は「うたかたの恋」の詳しいストーリーをご紹介します。

※5分ほどで読み終わる記事です。この記事を読むと「うたかたの恋」の内容がしっかりわかります。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり。ぜひ男性にもバレエを観に行ってもらいたいと思っています。

バレエ「マイヤーリンク(うたかたの恋)」のあらすじ

史実をもとにしたバレエ


原題は「Mayerling」。スペル上「g」ですが、発音は「マイヤーリンク」となります。昔は「マイヤーリング」と言っていた気がしますが、いつの間にか変わりましたね…。

マイヤーリンクとは地名のことで、ルドルフ皇太子が自殺した場所であり、マイヤーリンク事件の舞台です。マクミランは「うたかたの恋」を創作するにあたり、脚本や、編曲を専門家に頼み、初めてチームを組んだそうです。

「うたかたの恋」は同名の映画があります。マクミランはこの映画に着想を得てバレエを作ったようです。この「うたかたの恋」は史実に基づいていることもあり、歴史を知っている人にとっても興味深い作品だと思います。

ルドルフ皇太子の死に関わる人物は、ほぼ出てきます。エリザベート皇后(ルドルフの母)はミュージカルにもなっていて、魅力がある人物・題材なんだと思います。僕は、家に小説があるものの(借りたもの)まだ読めていません。これを機に読もうと決心しました。

ルドルフ皇太子が死に至るまでの8年間

バレエの物語は、ルドルフ皇太子がすでに精神的に追い詰められている状態から始まります。そのため、ポジティブな感情が一切ありません。

ケネス・マクミランはなぜこの題材を選んだのかが非常に気になります。

ちょうどこの時代、世界屈指のバレエダンサーであるルドルフ・ヌレエフが、男性ダンサーの地位を向上させています。ヌレエフ以前は、男性ダンサーは女性ダンサーのサポートにほぼ徹していました。それを大きく変えたのがルドルフ・ヌレエフです。

マクミランもヌレエフと同時代に男性を主人公にしたバレエ「うたかたの恋」を発表しました。

かんたんなあらすじ

1889年、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフが、17歳の愛人マリー・ヴェッツェラとマイヤーリンクで心中をとげる。実の母であるエリザベート皇后から愛されず、政治の道具として使われてしまうルドルフ。

どんどん正気を失っていくルドルフと、ルドルフを取り巻く5人の女性の物語です。昼ドラ並にドロドロしています。とても血生臭い、ドロドロした物語です!!

シーンの数が多く、どんどん舞台が展開していきます。


Mayerling trailer (The Royal Ballet)

途中にでてくるテロップは、「事実は小説より奇なり」「情熱と狂気。マクミランの最高傑作」と出ています。本当にそのとおりです。

制作・キャスト

制作

1978年初演
振付:ケネス・マクミラン
台本:ジリアン・フリーマン(小説家)
音楽:フランツ・リスト
編曲:ジョン・ランチベリー編曲
美術・衣裳:ニコラス・ジョージアディス

登場人物

ルドルフ皇太子・・・オーストリア・ハンガリー帝国の皇太子。フランツ・ヨーゼフ皇帝の嫡子
マリー・ヴェッツェラ・・・ルドルフの最後の愛人で心中時は17才。男爵令嬢ではあるが普段宮殿に出入りは許されていなかった

ステファニー皇妃・・・ルドルフ皇太子の妻。ベルギー王家の出身
フランツ・ヨーゼフ皇帝・・・オーストリア・ハンガリー帝国の皇帝。ルドルフの父エリーザベト皇后・・・フランツ・ヨーゼフ皇帝の妻。ルドルフの母

ラリッシュ伯爵夫人・・・ルドルフの前愛人(史実では従姉妹)。ルドルフとマリーの仲を取り持つ
ヘレーネ・ヴェッツェラ夫人・・・マリーの母。コンスタンチノープルの銀行家の娘。上流階級に食い込もうと必死

ブラットフィッシュ・・・ルドルフのお気に入りの御者
ミッツィー・カスパール・・・高級娼婦。ルドルフの一番お気に入りの愛人
”ベイ”・ミドルトン大佐・・・英国の騎兵将校。エリーザベト皇后の愛人
ハンガリーの4人の高官・・・ルドルフがハンガリーに傾倒していることの象徴

このように舞台に出てくる人物は群舞を含め、すべての役にストーリーがあります。そのため誰を観ても舞台上の人物は生き生きと演技をしています。とても満足感の非常に高い舞台です。

【上演時間】
第1幕:40分
第2幕:52分
第3幕:45分

ここからは詳しい内容をみていきます。

1幕

プロローグ

誰かの棺がひっそりと地中に納められます。

ブラットフィッシュの泣きそうな顔が非常に印象的なシーンです。

ホーフブルク宮殿の舞踏会の間

1881年、ホーフブルク宮殿では皇太子ルドルフとステファニーの婚礼を祝う舞踏会が開かれています。

ルドルフはステファニーそっちのけで、ステファニーの姉ルイーズにちょっかいを出します・・・。みんなにわかるくらいで、場が凍り付きます。

この頃すでにルドルフは、父ヨーゼフ1世との確執がありました。また、梅毒を罹っていたようです。史実によると、自分の生き方に行き詰まりを感じていたルドルフが、自殺の相手を探していた、と考えられているようです。

ポイント

音楽のテンポが非常に速いです。舞踏会に招かれた方々が老若男女問わず歩くテンポが速い!!「うたかたの恋」はテンポよく進んでいくんじゃないかという予感がしました。

そして、衣装が非常に豪華!! 全てのキャストの衣装が豪華です。細かい部分まで豪華。

マリーとの出会い

ラリッシュ伯爵夫人に、ヴェッツェラ男爵夫人とその娘でまだ幼い少女のマリーを紹介されます。マリーは幼いながらもルドルフに一目惚れしてしまいます。

ポイント

ここで女性ダンサーの主役であるマリー・ヴェッツェラが初登場します。マリー・ヴェッツェラはこの作品ではたくさん登場するわけではありません。1幕ではこのシーンのみの登場のため、ここでどれだけ印象付けられるかがポイントです。

そしてマリー・ヴェッツェラは少女です。でも演技力がとても要求されるため、キャリアの長いダンサーがつとめることが多くなります。年齢が高いダンサーでもどれだけ初々しさを表現できるか。しかし、その初々しさと同時にルドルフを操るような妖艶さも必要とされる非常に難易度の高い役です。

ハンガリーの4人の高官

ルドルフの友人であるハンガリーの高官4人が、ハンガリーの分離派運動についてルドルフに熱く語ります。ルドルフがハンガリー勢力に加担していく様子が描かれます。少し高圧的な高官。オーストリアとハンガリーの狭間で揺れるルドルフ。こういう政治的な色が濃いのも「うたかたの恋」の特徴です。

史実によると、ルドルフは頭脳明晰だったそうです。知識があるゆえ、リベラルな方面に傾倒していくことになります。ちなみに、ルドルフの母のエリザベートも語学の才能がすごかったという話です。

ポイント

この4人の踊りが非常にスピーディーかつアクロバティックです。テクニックだけでなく、ルドルフの心情を表す役割を持っているため演技力も必要です。また、その中でもひとりメインのダンサーがいて、とてもテクニックが要求される役です。

そして嵐が吹き荒れるような音楽も特徴的です。

ラリッシュ伯爵夫人とのパ・ド・ドゥ

ルドルフの愛人のひとりであったラリッシュ伯爵夫人。ラリッシュ伯爵夫人がルドルフとよりを戻そうとするシーンです。

そして最後にキスする二人、と同時にエリザベート皇后やヨーゼフ皇帝が登場。一気に場が白けてしまいます。

ポイント

ラリッシュ伯爵夫人は物語の中で、ルドルフの味方であり続ける存在です。ラリッシュ伯爵夫人はルドルフとは同い年で、エリザベート皇后の兄の娘のためいとこにあたります。

ここで幕が一度閉じ、舞台が転換します。ハンガリーの4人の高官がここでもルドルフとなにやら秘密裏に話をしています。

ホーフブルク宮殿の皇后エリーザベトの部屋

舞踏会が終わり、エリザベート皇后はお気に入りの女官たちと楽しく過ごしています。この時の侍女の踊りがコケティッシュでかわいいシーン。重いテーマが続いていく中で少し休まるシーンです。

そこにルドルフが登場し場の空気が一変。エリザベート皇后とルドルフのパ・ド・ドゥが始まります。

ルドルフは母親のエリザベート皇后の同情を引こうとしますが、エリザベートは気にも留めません。エリザベートはとにかくルドルフには冷たいです。これがのちの悲劇につながるわけですが、親子の難しさが表れている場面です。

ホーフブルク宮殿のルドルフの部屋

非常に恐ろしい場面です。ルドルフはステファニーをレイプまがいに襲います。拳銃と骸骨の頭を両手に持ち登場…。ステファニーに銃をつけつけます。空を打つものの非常に緊迫したシーンです。このシーンは、ステファニーにただただ同情します。

ルドルフの狂気性が印象づけられ、かなり後味が悪い状態で第1幕が終わります。

ポイント

バレエでここまで生々しいシーンがあるのは珍しいです。振り付けもアクロバティックだし、実際に銃をぶっ放すし…。ただ、逆にバレエだからこそ残虐性にフィルターもかかります。

たぶん演劇や映画だと目を覆ってしまうシーンです。残虐なストーリーなのに、振付は美しい。すごい矛盾を感じました。

ステファニーは宮殿の生活が大好きで、ルドルフはリベラルなインテリ階級と街で騒ぐのが好き。まったく合いません。

二人の間にはエリザベートという女の子も誕生します。ですが、その後、ステファニーはルドルフから性病を移されてしまい妊娠できなくなった、と言います。華々しい宮殿とその裏にあるドロドロとした世界。ハプスブルク家が滅亡するのは当然の流れだったかもしれない、と思ってしまうのでした・・・。

第2幕

悪評の高い居酒屋

このシーンは華やかで踊りが満載の楽しいシーンです。居酒屋というより娼館というかんじ。ルドルフは新婚旅行でステファニーを娼館に連れて行ったそう…。おいおい…。たぶんそれを意識してのシーンです。

ここでブラットフィッシュとルドルフの本命、高級娼婦ミッツィ・カスパーが登場します。また、下着に鼓笛隊の帽子のようなものを被った娼婦の踊りや男性の客の群舞もあります。

ステファニーも居酒屋にやってきますが、場に馴染めず出て行ってしまいます。

ミッツィ・カスパーと4人の高官の踊りは素晴らしいです。リフトも初めて見るようなものばかりで40年前に作られたとは思えないくらい古びてないです。↓

そして、警察が登場。場が解散します。

ブラットフィッシュのソロ、ルドルフのソロ、群舞も含め、超がつくほどのスピード感です。

自殺のお誘い

ルドルフは最後にミッツィーに自殺を持ちかけます。ミッツィーにはその気がまったくありません。そして、ミッツィーはルドルフを捨て、金持ちと去っていってしまいます。実際、史実でもルドルフは誘いましたが断られてしまいます。そこで、マリーに鞍替えするようですが、本当に気に入っていたのはミッツィと言われています。

ヴェッツェラ家

ラリッシュ伯爵夫人が友人のヴェッツェラ男爵夫人の家を訪れ、マリーがルドルフにアタックするようけしかけます。ラリッシュ伯爵夫人がこのシーンで「いかさま占い」をやるんですが、よくできているな~と思いました。

史実では、ラリッシュ伯爵夫人はエリザベート皇后の兄と女優の娘で、宮廷への出入りも許されない生まれでした。ただエリザベートが可愛がっていたおかげで、宮殿に出入りすることができ、ルドルフと幼なじみだったそうです。この出自から、宮殿に気軽に入れないマリーに思うところがあったのかもしれません。

ポイント

ここでようやくマリー・ヴェッツェラが登場します。

ホーフブルク宮殿 – フランツ・ヨーゼフ皇帝の誕生祝い

ここは複雑な場面です。ルドルフと父親であるヨーゼフ皇帝との政治的な意見の相違が顕著になったり、父と母両方の浮気相手が同席し、ルドルフが母の浮気を目撃してしまったり、マリーからの手紙をラリッシュ伯爵夫人から手渡されたり。

カタリーナ・シュラットという歌手が登場。実際にオペラ歌手が配役され、悲しげに「我は別れゆく」という歌を歌います。本物の歌手が歌っていて、バレエとオペラが融合している場面です。このカタリーナ・シュラットは、エリザベートが自分の身代わりに皇帝にあてがった愛人です。ハプスブルク家の虚構に成り立つ、貴族の複雑な世界が描かれています。

ポイント

このシーンでハプスブルク家の虚構がみてとれます。皆が政略で動いていて、行動と心が伴っていません。そんな環境で育ったルドルフに同情してしまいます。

ルドルフは革命分子に傾倒していくのですが、それはハプスブルク家がみかけだけの世界だから、と思ってしまうのでした。

ホーフブルク宮殿 – ルドルフの部屋

ここでついにルドルフとマリーがふたりで会い、密かに結ばれます。内容は過激!

同じ嗜好を持つ二人が、ここで本当の意味で出会ってしまいます。暴力的で、性に耽溺する部分まで似ています。

この時マリーは17歳。たぶんルドルフはマリーに対して愛はありません。ですが、いいタイミングにマリーが現れ、死への渇望を満たす相手が見つかってしまいます。

ヘビのような狡猾で絡みつくような振付、アクロバティックな展開。狂気に満ちるルドルフにも負けないマリー。

小鳥がさえずるような音楽だったり、穏やかな曲もあいだに挟まれます。

第3幕

田園地帯にある皇室の狩猟場

ルドルフは猟銃を暴発させて皇帝のすぐ側にいた従者を死亡させてしまいます。完全なる事故とはいえ、人を殺してしまいます。

要注意人物のレッテルを張られていたルドルフは、皇帝暗殺未遂の噂もたてられ、立場がなくなってしまいます。この事件を機に、さらに自殺願望が膨らんでいきます。すべてから解放されたいという願い。

ホーフブルク宮殿のルドルフの部屋

ルドルフを慰めるラリッシュ伯爵夫人。そこにエリザベートが入ってきます。そしてすごい剣幕でラリッシュ伯爵夫人を追い出してしまいます。

そしてラリッシュ伯爵夫人がマリーを連れてきます。

マリーと2人きりになり、ルドルフは「一緒に死んでくれ」と懇願します。マリーはその提案に物怖じすることはありません。

ルドルフもマリーも、いつ死んでもおかしくない状況です。

マイヤーリンクの狩猟小屋

酒に溺れるルドルフ…。

マイヤーリンクにマリーとブラットフィッシュと滞在しています。

ここでブラットフィッシュのソロがあります。ルドルフがブラットフィッシュに余興を命じたものの、ルドルフもマリーも見ていません。

しかし、どうにもできなことに気づいて、ブラットフィッシュは引き下がっていきます。この出来事は、史実にも書かれています。

命を絶つシーンへ

ルドルフはモルヒネを打ち、マリーと最後のパ・ド・ドゥを踊ります。その後マリーを撃ち、最後に自分自身を撃ち死に至ります。このシーンは息もできないほど緊迫しています。

ポイント

内容が内容だけに「感動」するかはわかりません。ですが、ルドルフの決断に共感できるシーンでもあります。国を良くしたい、愛をつかみたい、幸せになりたい、こうした感情がすべてすれ違っていくとこういう結果になるような気がします。

特に皇太子ともなると一つのミスも許されない。そうした中で生きる息苦しさ。現代の観客が観てもかなり共感できるんじゃないかと思います。

エピローグ

プロローグのシーンに戻ります。ハイリゲンクロイツの墓地。

夜陰に紛れて1台の馬車が到着します。ふたりの遺体は死後すぐに引き離され、ルドルフの遺体は宮殿に運ばれ、皇太子にふさわしい埋葬がなされます。

しかしマリーの遺体は自殺を隠すため、生きている人間のように馬車に座らされ、ハイリゲンクロイツの墓地へ運ばれます。母や兄姉の立会いも禁じられて、さびしく埋葬されたといいます。ここで、プロローグの棺が、ルドルフの心中相手であるマリー・ヴェッツェラのものであることが明かされます。ルドルフの心中は極秘事項であり、人知れず墓に入れられるのでした。

まとめ

たぶんあらすじを知っていないとなかなかすべてを理解するのは難しいと思います。ですが、ここで書いたあらすじよりももっと単純にストーリーは進んでいくので安心してください。

結局、マイヤーリンク事件の真相は闇のままとなっています。最近、マリーが母に宛てた手紙が銀行から見つかったということで話題になりました。マリーのお墓はすでに荒らされていて悲劇的な状況が続いています。

この作品はとにかくアンバランスです。華やかにみえるハプスブルク家は崩壊し、完璧にみえる王室はガタガタな関係、素敵なカップルが浮気をし、少女のようなマリーが狂気を抱えています。正常と狂気は非常に紙一重。現代の我々が抱えている問題を表現しているかのようです。この作品が40年前に作られたのにも関わらず、いまも色褪せないのはこうした理由からかもしれません。

そしてマクミランの振り付けたバレエは演劇的と言われます。中でも「うたかたの恋」は、圧倒的な演技力と技術力が試されます。「うたかたの恋」を枯らさず、上演し続けるロイヤルバレエ団に拍手喝采です。

マイヤーリンクを実際にみた感想はこちらからどうぞ

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何年か前に日本にロイヤルバレエが持ってきたこともありました。たぶん日本人好みの作品だと思います!
ありがとうございました。