ロシアの文学作品「オネーギン」。この「オネーギン」はバレエにもなっています。50年以上前につくられた作品であるにも関わらず、内容が一切変わらず現在も上演され続けています。

kazu

今回は「オネーギン」の魅力や、あらすじ、みどころをご紹介します。

    ※3分ほどで読み終わる記事です。この記事を読めばジョン・クランコ版のオネーギンはバッチリです。

    記事を書いているのは…

    元劇団四季、テーマパークダンサー。30分のショーから2時間の舞台まで出演回数は5,000回は軽く超えているんじゃないかと思います。レッスンを受けるのが大好きで、ひたすら踊りまくっていました。今もレッスンは継続中でフリーのダンサーとして活動中です。

    クランコ版バレエ「オネーギン」あらすじと見どころを完全解説

    女性ダンサーが踊りたい役

    タチヤーナの成長物語

    主人公の「タチヤーナ」は、第1幕では恋に恋する少女、第2幕では恋のツラい部分を経験し、そして第3幕では分別ある大人の女性へと成長をとげます。

    「オネーギン」は物語バレエとよばれ、演技力が必要とされる作品です。中でも、オネーギンとタチヤーナが一緒に踊る第1幕の「鏡のパ・ド・ドゥ」と第3幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」は非常に有名です。ガラ公演では踊りたい、というダンサーがとても多く人生をかけて演じるような役となっています。

    演劇的で隙のない作品

    振付はジョン・クランコです。僕はシュツットガルト・バレエ団が一番好きなバレエ団です。その理由としてはジョン・クランコの作品がある、というのが大きな理由です。

    このオネーギンは飽きる部分がほとんどないと思います。スピード感があって、主役から群舞まで生き生きしています。

    制作

    アレクサンドル・プーシキン原作によるジョン・クランコ振付の全3幕のバレエです。初演は1965年4月13日シュトゥットガルト州立劇場、シュツットガルトバレエ団です。

    制作スタッフ

    原作:アレクサンドル・プーシキン
    振付:ジョン・クランコ
    音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
    編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
    装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ

    初演当時から舞台装置、衣装、振付にいたるまで何も変わっていない作品です。今でも当時と同じ作品をそのまま見ることができます。

    上演時間

    第1幕:45分
    第2幕:25分
    第3幕:25分

    休憩をはさんでも2時間ほどでバレエとしてはコンパクトな作品です。短く内容がつまっているので、とてもスピード感があり、あっという間の2時間だと思います。

    あらすじ

    1820年代のロシアが舞台です。都会育ちの洗練されたオネーギン。オネーギンの親友レンスキーと、その恋人であるオリガが住む田舎にふたりでやってきます。田舎の地主の娘であるオリガにはタチヤーナという本が大好きで内気な妹がいます。

    そのタチヤーナは洗練されたオネーギンを一目見ただけで恋に落ちてしまいます。恋文をしたためオネーギンに渡すタチヤーナ。ですが、恋になれているオネーギンにとってタチヤーナの恋心はとても幼く、うっとうしいものでした。

    オネーギンはタチヤーナからもらった手紙を目の前で破り捨ててしまいます。そして退屈しのぎにオリガにもちょっかいを出してしまいます。それに激怒するレンスキー。軽いケンカがとうとう決闘にまで発展してしまいます。後に引けなくなったふたりは、銃でお互いを打ち合い、レンスキーが死の床についてしまいます。もちろんオネーギンにとってもダメージが大きく、失意のうちに去っていくのでした。

    6年後、ついにオネーギンが故郷のサンクトペテルブルクに戻ってきます。社交界から距離を置いていましたが、久々にパーティーに参加することになります。そこで侯爵夫人となったタチヤーナと偶然再会します。

    洗練されたタチヤーナを見て、オネーギンの恋心が一気に燃え上がります。揺さぶられながらも人妻としての常識を失わないタチヤーナ。タチヤーナはかつて自分がされたように、オネーギンの手紙をきっぱりと破り捨て去っていくのでした。

    レイフ・ファインズとリヴ・タイラーによる映画です。キャストがハマっているのでバレエの前の予習にぴったりです。

    ジョン・クランコの傑作

    ジョン・クランコは45歳のとき、飛行機内で心臓発作で亡くなるという壮絶な終わり方をしている人物です。このジョン・クランコにインスピレーションを与えていたダンサーとして有名なのがマリシア・ハイデです。

    この「オネーギン」もマリシア・ハイデのために創られた作品です。マリシア・ハイデはのちにシュツットガルトバレエ団の芸術監督を引き継ぎます。


    (2012年、オネーギン:エヴァン・マッキー、タチヤーナ:アリシア・アマトリアン、レンスキー:フリーデマン・フォーゲル)

    世界中のバレエ団が「オネーギン」の上演権を持っていて、日本では東京バレエ団が上演権を獲得しています。

     大人向けバレエ

    十数年前に観た時は「オネーギン!なんてダメな男なんだ!」と思っていました。歳を重ね、何度も見るうちに、だいぶ理解できるようになりました。

    kazu

    そういう時もあるよね・・・。

    さすがにオネーギンほど取り返しがつかなくなることはないですが、自分本位になってしまうのは、かなり理解できます。

    誰しも尖がっている時期はあるし、後悔していることもあります。そして、忘れられない人。そんな苦い経験がある人ほど心に刺さるバレエです。

    登場人物

    主要なキャラクター

    オネーギン
    タチヤーナ

    レンスキー(オネーギンの友人でオリガの許嫁)
    オリガ(タチヤーナの姉)
    ラーリナ夫人(未亡人、タチヤーナとオリガの母)
    彼女たちの乳母
    グレーミン公爵(タチヤーナの夫)

    その他大勢の扱いにされがちな群舞も、オネーギンでは非常に重要な登場人物です。きっとダンサーの方たちも楽しいんじゃないかな、と思います。

    オネーギンとタチヤーナの踊りと、群舞の踊りにメリハリがあって全く飽きることはありません。

    ここからはみどころをご紹介していきます。

    第1幕のハイライト「鏡のパ・ド・ドゥ」

    タチヤーナが夢のなかで、オネーギンと一緒に踊ります。このオネーギンは実際のオネーギンではなく、タチヤーナが妄想する理想の姿のオネーギンです。幸せに満ち満ちているパ・ド・ドゥです。振り付けとしては、高難度のリフトの連続です。

    最初「鏡のパ・ド・ドゥ」をみたとき、一気に引き込まれてしまいました。鏡の中からオネーギンが抜け出てくる演出は、50年前のものなのに、今でもスゴイ!と思ってしまいます。ジョン・クランコはやっぱりスゴい!

    このシーンのできで、作品の良し悪しがわかれてしまうので、とても重要なシーンです。


    パリ・オペラ座での公演(オネーギン:エヴァン・マッキー、タチヤーナ:イザベラ・シアラヴォラ)

    ちなみに、ガラ公演(抜粋を何作品も上演する公演)で、このパ・ド・ドゥはとても人気です。

    手紙を破るオネーギン

    タチヤーナをこっぴどく振るオネーギンが見所です。すごく残酷なシーン。タチヤーナはすごくショックを受けますが、オネーギンは何とも思っていない。ひどいシーンなんですが、ここでどれだけ残酷にふることができるか、というのが後の展開にも生きていきます。

    一方通行の恋愛。非情なシーンなので、客観的に観ると本当にツラいです。でもその反面、タチヤーナは夢見る夢子なので、現実にいたら結構やっかいかもしれません。なので、こっぴどく振らないとわからないのかも・・・、と思ったり。にしても、本人の目の前でラブレターを破り捨てるオネーギン。まだ年端もいかないタチヤーナをバッサリです。

    一生トラウマになってしまうような断り方…。恐ろしいです。

    オネーギンとレンスキーの決闘

    こちらも第2幕より。ちょっとのおふざけから、決闘にまで発展してしまう悲しいシーンです。社会的な地位やプライドを守ることは、現代人にも共感できると思います。さすがに、殺すまではいかないと思いますが・・・。

    このシーンは、演劇的要素が非常に強いシーンです。オネーギン、レンスキー、タチヤーナ、オリガ、この4人がまるで会話をしているかのようで、セリフまで聞こえてきそうなシーンです。

    バレエは言葉がないだけに、口に出すセリフだけでなく、心の声まで聞こえてくるようです。

    冷静になればわかる話でも、後に引けないこともある。このどうしようもないドラマがとにかくツラい。オネーギンが完全に悪いんですが、それでもタチヤーナだけはオネーギンを心配しています。あんなにこっぴどく振られたのに、思いを寄せるタチヤーナ。どうしようもない感情がなおさらツラいです。

    タチヤーナとオリガは最後までふたりを止めに入ります。この時の衣装がすごく特徴があって、印象に残ります。ベールをかぶり、衣装の色もとても印象的。

    そして、結果的にオネーギンはレンスキーを殺してしまいます。この時、泣き崩れるほどの演技をするダンサーもいます。

    きっとオネーギンは一生後悔して生きていくんだろう、と思います。親友を殺すという重みを背負って生きるということは、どういうことなんだろうか・・・、と考えてしまいます。

    手紙のパ・ド・ドゥ

    最後の見所は、作品最後のシーンです。

    タチヤーナは公爵夫人となっています。オネーギンは、公爵家で再会したタチヤーナに熱烈な恋文を送ります。第1幕の逆パターンです。

    この「手紙のパ・ド・ドゥ」は、晩餐会で最高潮に盛り上がった場面から、ふたりの踊りになだれ込んでいきます。群舞のシーンは、音がめちゃめちゃ速いのでダンサー泣かせです。ガラ公演では二人の踊りだけが切り取られますが、この前段階のシーンがあるのとないのとでは雲泥の差です。

    そして「手紙のパ・ド・ドゥ」。

    オネーギンとタチヤーナは、「レンスキーの悲劇」を分かち合える唯一の存在です。そしてタチヤーナにとって、忘れられない初恋の相手。僕から見るとオネーギンはタチヤーナを純粋に好き、というよりは慰めてくれる相手に思っているのではないか、と感じます。

    オネーギンはかなり自滅型で、無意識的に人を傷つけてしまうのかもしれません。それでもオネーギンには魅力があって、魅かれてしまうんだと思います。

    タチヤーナもこのシーンでは心がかなり揺れています。タチヤーナは成長しているのに、オネーギンは変わらない。自分勝手なオネーギンと、大人になったタチヤーナ。今もよく見かける、女性だけ先にすすんで男性はそのまま、というパターンです。

    オネーギンはこの期におよんで、タチヤーナに甘えようとしています。客観的に観ていると本当に痛々しい。

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    オネーギンよ、どうにか平穏な生活を送ってくれ。

    最後はタチヤーナがオネーギンの手紙を、目の前で破ります。

    これも第1幕の逆パターンです。第1幕で、オネーギンは悪気なく手紙を破ります。ですが、タチヤーナは純粋な愛を持って手紙を破ります。たぶんこの二人は永久にすれ違い続けていく運命なんだ、と感じました。

    タチヤーナは初恋の相手に純粋に向き合っているのに対し、オネーギンは無意識かもしれないですが打算的。

    第3幕の「手紙のパ・ド・ドゥ」では第1幕の「鏡のパ・ド・ドゥ」の振り付けが少しずつ入っています。この振付がとてもいきです。タチヤーナから見ると過去の熱い思い。オネーギンから見るとタチヤーナを引きずり込もうという罠にも思う。

    この「手紙のパ・ド・ドゥ」は想像力をかきたてられます。タチヤーナは最後きっぱり断ります。タチヤーナの純粋さがオネーギンに勝ってくれて、ホッとしますが、二人が結ばれる姿も見てみたい、とも思うのでした・・・。


    日本でも人気のディアナ・ヴィシニョーワとマルセロ・ゴメスによる踊り。演技が濃ゆい二人ならではのドロドロした展開。僕はすごく好きです。

    ただマルセロ・ゴメスはスキャンダルでバレエ団を退いたことがありました。今はまた精力的に活動していますが、ちょっと残念です。

    オネーギン


    kazu

    2時間の中で、ひとつの人生を語り切る「オネーギン」。素晴らしい作品なのでぜひチェックしてみてください!!
    ありがとうございました!