バレエといえば「白鳥の湖」です。「白鳥の湖」は世界中のバレエ団が必ず持っている作品で、内容がバレエ団によって微妙に変わります。

ちなみに白鳥たちが登場する第2幕は注意が必要です。最強の子守唄になってしまうことも・・・。爆睡する人が続出する魔の時間です。笑

今回は、英国ロイヤルバレエ団のスカーレット版「白鳥の湖」をご紹介します。

  • 第一幕
  • 第二幕
  • 第三幕
  • 第四幕
  • リアム・スカーレットのインタビュー
  • ロイヤルバレエ団のメイキング映像
  • ※5分ほどで読み終わる記事です。リアム・スカーレットのインタビューや、メイキング映像をふくめ紹介します。

    記事を書いているのは…
    元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録あり。ぜひ男性にもバレエを観に行ってもらいたいと思っています。

    スタッフ

    【原振付】マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ
    【追加振付】リアム・スカーレット/フレデリック・アシュトン
    【演出】リアム・スカーレット
    【美術・衣装】ジョン・マクファーレン
    【作曲】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

    2018年に改定が行われました。それまでは英国ロイヤル・バレエ団はアンソニー・ダウエル版というバージョンでした。この変更にともない、衣装や舞台セットにまで大きなチェンジがありました。

    【上演時間:2時間22分】
    第1幕&第2幕(65分)
    第3幕(43分)
    第4幕(34分)
    実際に劇場で感激する場合、休憩時間が第2幕と第3幕、第3幕と第4幕に休憩が入ります。休憩は20分~30分入るので、合計3時間30分くらいになります。

    主な登場人物

    オデット(白鳥に変えられてしまったプリンセス)/オディール(オデットそっくり)
    ・・・二人一役です
    ジークフリート王子

    ロットバルト:悪魔/女王の側近
    女王(ジークフリート王子の母)
    ベンノ(ジークフリート王子の友人)
    ジークフリート王子の妹たち

    小さな4羽の白鳥
    大きな2羽の白鳥
    花嫁候補4人(イタリア、スペイン、ハンガリー、ポーランド)
    スペインの踊り
    チャルダッシュ
    ナポリの踊り
    マズルカ

    30年ぶりの改訂

    今回は新バージョンということで、ストーリーや登場人物、使用曲に工夫がたくさんありました。3年がかりで作った超大作。以前のアンソニー・ダウエル版は30年続いた作品なので、プレッシャーは相当のものだったと思います。

    「白鳥の湖」はそもそも突っ込みどころが多いストーリーなので、どう物語に説得力をだすか。リアム・スカーレットの手腕が問われます。

    リアム・スカーレット版の大きな特徴はバッドエンディングです。僕は「白鳥の湖」は悲劇で終わったほうがいいと思っているので、ちょっとテンション上がります。

    youtubeに全幕の映像あり!

    しばらくすると消されてしまう可能性の高い動画です。生の舞台で観た方が楽しいですが、映像でもじゅうぶん楽しめます。

    ここからは、リアム・スカーレット版のストーリーとポイントをご紹介します。

    プロローグ

    オデットはロットバルトにより白鳥に変えられ、さらわれてしまいます。

    ポイント

    このシーンは早変わりのシーンです。人間の王女が一瞬で白鳥に変わります。通常は、人間の姿(オデット)を主役が演じ、変身後の白鳥を替え玉役のダンサーが演じることが多いですが、スカーレット版は逆。王女が替え玉役のダンサーで、主役が呪われた白鳥を演じていました。

    そして、ロットバルトの衣装がなかなかのホラーです。

    第一幕

    王子が友人のベンノや宮廷の人々と一緒に楽しんでいるシーンから始まります。しばらくすると、人間に化け女王の側近としてつかえるロットバルトが登場。どうやら王子をはじめ宮廷の人々からロットバルトは嫌われている様子。

    ロットバルトが退場するとみんながリラックスし、王子の誕生祝いをはじめます。

    そして女王が王子の妹2人と登場。女王から王子に誕生日祝いのプレゼントとして、亡き父の弓矢を贈り物として授けます(成人の象徴です)。

    ここで女王は、次の日の夜に開催される宮廷の舞踏会で4人の花嫁候補から花嫁を選ぶよう王子に伝えます。女王の裏にはつねにロットバルトがいて、かなりの影響力がうかがえます。

    女王が去った後、王子はみんなと楽しく過ごします。でも、パーティーが終わった後、王子は心にもどかしさを持ち、宮殿に帰ろうとしません。それをみたロットバルトは宮殿に戻るよう働きかけます。ですがそれを拒否する王子。ロットバルトは王子が持つ弓矢をみて、心臓を押さえ森の中に走り去っていきます。それに気づかない王子・・・。

    そして王子も不安を抱えつつ、ひとりでどこかに行ってしまうのでした。

    ポイント

    通常の物語の舞台は中世ですが、スカーレット版は現代的でイギリス王室風です。

    スカーレット版では、王子の友人べノンが活躍します。他のバージョンで道化が踊る部分をベンノが担当します。また、パ・ド・トロワをベンノと王子の妹2人が踊ります。

    王子の妹がでてくる設定はあまり見られません。パ・ド・トロワの女性が、王子の妹という役割が与えられているのは良いアイディアだと思います。

    王子のソロが踊られている間に、宮廷の場面から湖のほとりに舞台がスムーズに転換されます。通常だと第1幕と第2幕の間は舞台転換のため2,30秒ほど小休止があります。この小休止でけっこう気持ちが切れてしまうので、スムーズな流れはとても良かったです。

    ツッコミポイント

    悪役のロットバルトは人間に化けています。ですが、めちゃめちゃ嫌われています。顔色も悪く、悪役感がスゴイです。普通こういうときって、溶け込む努力をするんじゃないかと・・・。嫌な言い方をすると、このロットバルトに騙されている王国の人々は相当おめでたいな、と思ってしまいました・・。

    第二幕

    王子を心配したベンノは王子を追って湖のほとりへ。ベンノは王子に宮廷に戻るよう語りかけます。ですが王子はベンノに帰るよう指示します。

    再び一人になった王子は白鳥の群れを見つまする。驚いたことに、一羽の白鳥が、美しい乙女「オデット姫」に変身します。オデットは「昼間は白鳥、夜は人間の姿に戻る」呪いにかけられていると王子に伝えます。

    呪いを破る方法はただひとつ。「まだ誰も愛したことがない人」がオデットに不滅の愛を誓うこと。王子は本来の姿に戻っているロットバルトを弓で狙うが、「ロットバルトが殺されると呪いが解けなくなってしまう」とオデットから聞かされます。

    その後ふたりは愛を深めていきます。しかし、だんだん呪いに縛られる朝が近づいていいきます。夜が明けると、オデットは白鳥の姿に戻ってしまうのでした。

    ポイント

    湖畔のシーンはとても暗くゴシック調で重厚感があります。そこに真っ白なチュチュの白鳥たち。群舞の24羽の白鳥が登場すると、黒い背景にぼわーっと浮かび上がりとても幻想的です。

    オデットが自分にかけられた呪いを王子に伝えるシーンは2つのバージョンがあります。ひとつは踊りで表現する方法。そしてもうひとつはパントマイムで伝える方法です。今回は後者のパントマイムでした。僕はパントマイムの方が好きです。というのもこのシーンはパントマイムの方が真意が伝わると思うからです。特に演技力が長けたダンサーがパントマイムを行うと説得力があり、一気に舞台に引き込まれるとても素敵なシーンです。

    衣装に大きな変更がありました。以前のアンソニー・ダウエル版ではオデット以外の白鳥はチュチュではなく、ひざ丈のスカート型の衣装でした。今回は白鳥全員がチュチュを着ていて、こちらの方が好きです。スワロフスキーで葉脈のような柄が白鳥たちのチュチュに細かくついています。ただ、これがちょっと不気味な感じで気持ち悪く見えてしまいました。

    また、群舞の中でソロを踊る白鳥たちの構成は、小さな4羽の白鳥と2羽の大きな白鳥という構成でした。大きな白鳥2羽の踊りはオリジナルな部分が多く、流れるような振付で好きでした。

    小さな4羽の白鳥は、とても有名です。動画をどうぞ。


    Swan Lake – Dance of the cygnets (The Royal Ballet)
    cygnetsとは白鳥のひなを指します。そのため小さな4羽の白鳥といいます。

    白鳥は、主役のオデットを除くと32羽登場します。普通のバージョンだと大きな白鳥と小さな白鳥が4羽ずつ登場します。ですが、今回は2羽の大きな白鳥のため、2羽足りません。そのため、少しだけ2羽のダンサーが登場します。

    ツッコミポイント

    舞台がかなり暗いように思います。「白鳥の湖」は第2幕はとっても危険です。この危険というのは「眠くなる」という意味です。ずーっと静かな曲が続き、8分ほどのパ・ド・ドゥで最高潮をむかえます。このパ・ド・ドゥはバイオリンのソロで一番静かなシーンです。

    危険度高めです!

    第三幕

    王子は舞踏会ギリギリに戻ってきます。準備のために一度中座します。

    そして招待客が入場します。王子の到着が遅いため、まずは群舞の踊りからスタート。そしてベンノ、王子の妹たちの踊りへ。

    その後王子が遅れて到着。花嫁候補のスペイン、ハンガリー、ナポリ、ポーランド4人の踊りへ。女王から花嫁を選ぶよう命令されるものの、王子は結婚相手を選ぶことを拒否。すると突然、オデットそっくりのオディールが舞踏会に現れます。

    オディールはロットバルトの魔法によりオデットと瓜二つです。王子はまったく気づきません。

    そしてここから各国の踊りへ。スペイン、ハンガリー、ナポリ、ポーランド。

    そして王子とオディールが舞台に戻ってきます。王子はオディールに魅了されてしまい、オディールをオデットだと信じ込んでしまいます。ロットバルトが常にオディールになにか指示をしていて、すべてを操っている感じが出ています。

    ついに王子はオディールに「永遠の愛」を誓ってしまいます。この愛の誓いにより、王子にはオデットの呪いを解く力がなくなってしまいます。ロットバルトは正体を明かし、女王から王冠を奪い王国を乗っ取ってしまいます。

    王子はすべてを壊してしまったことを思いしらされます。悲嘆にくれた王子は湖へと急ぐのでした。

    ツッコミポイント

    王子の妹たちは最初の踊りが終わるといなくなってしまいます。ロットバルトが王国を乗っ取られてしまったときですら出てきません。最後のカーテンコールで出てきていたので、せめてオディールに騙されるシーンには出てくるべきだったのでは?

    ポイント

    王子が舞踏会に遅れているため、友人ベンノが気をきかせて時間稼ぎをします。その際、普通の「白鳥の湖」では使われない曲が使用され、ベンノと王子の妹たちのパ・ド・トロワが踊られます。

    第3幕はダンサーたちの踊りがたっぷり見られるシーンです。

    また花嫁候補たちはロングドレスではなく個性的なデザインのチュチュ。インパクトがあって僕は好きでした。花嫁候補は女性ダンサーにとってチャンスが大きい役です。4人で一緒に踊るものの、個性を出してオッケーです!

    スペインの踊りは女性ダンサー1人、男性ダンサー4人です。男性ダンサーの衣装が絶妙にダサいです・・・。上着の丈がちょっと不思議。あとピアスを片耳につけているのがなんとも・・・。

    続いてチャルダッシュ(ハンガリーの音楽のひとつのジャンルで、ハンガリーの踊るをチャルダッシュといいます)。メインのカップル1組に群舞が4組という構成です。振付は従来のバージョンを踏襲しています。衣装は黒を貴重にしていて、金色のヘッドピースがいいアクセントです。

    3つ目はナポリの踊り。女性ダンサーと男性ダンサー1名ずつ。たぶんフレデリック・アシュトンの振付で、かなり細かいステップかつ、テクニックが織り込まれています。衣装が黒と白のストライプに、ナポリ的なアクセントがついていて個性的。盛り上がるシーンです。

    4つ目はポーランドの民族舞踊であるマズルカ。3組のカップルで踊られ、従来の振付が重視されています。衣装がコート調で、品があり、かつエネルギッシュです。

    そしてオデットと王子のシーンに移ります。オディールと王子が踊っている場面では各国の客人たちがみています。その時の女性たちのオディールへの反応がみていておもしろいのでぜひ注目してみてください。

    このオデットと王子のパ・ド・ドゥが「白鳥の湖」の踊りのシーンでの最大の魅せ場です。この踊りで舞台の良し悪しが決まってしまうので、このシーンだけは寝ないように注意してください。


    Swan Lake – Coda from the Black Swan pas de deux in Act III (The Royal Ballet)

    そして王子がオディールに愛を誓うシーンは少しタメが作られます。ロットバルトが本来の姿に戻ると黒鳥たちが一気に登場。舞台の背景も一気に変わります。このシーンの転換がとてもイイです。

    第四幕

    湖のほとりでは白鳥たちが踊っています。そこに傷心のオデットが現れ、白鳥たちに王子の裏切りを伝えます。ロットバルトが現れ、逃げられないことを悟るオデット。王子は嵐の中、必死にオデットを探しにやってくきます。

    そして二人は再会。王子はオデットに許しを乞います。ロットバルトが現れ、呪いが解けないことを二人は思いしらされてしまいます……。呪いから逃れる唯一の方法は、死…。

    オデットは、湖へと身を投げます。オデットが犠牲になることで、ロットバルトの呪い破られ、ロットバルトが滅びます。

    残された王子は、オデットの亡骸を抱えます。オデットは人間に戻りますが、王子はただ抱くことしかできないのでした。

    ポイント

    第4幕のはじまりは白鳥たちの群舞からです。この踊りは退屈におもえることが多く、眠くなってしまうのですが、スカーレット版は振付、フォーメーションとも工夫が凝らされていて素晴らしかったです。

    王子と再会したあと、ふたりの踊りがあります。このシーンはいらないんじゃないか、と思いました。一気に最後のシーンまで行ってしまうほうがスピード感があります。物語の展開に急ブレーキがかかっているように思えました。最後にオデットが「あなたは愛するって誓ったじゃない!!」とパントマイムで訴えます。そこから急に和解します。急すぎて変な感じがしました。

    戦いのシーンもよかったです。僕が一番苦手なのは、王子とロットバルトが直接対決するバージョン。踊りで戦いを表現するのはすごく難しいと思います。取っ組み合いみたいな感じの振付が多いんですが、どんなにうまい人が踊っていても迫力がないんですよね。「本気で戦え!!!!」と現実に引き戻されてしまいます。今回は茶番劇みたいな感じがなくてとても良かったです。

    オディールは、さーっと身を投げてしまいます。そして、王子とロットバルトは戦うことなく、ロットバルトが自滅していきます。最後、オデットが人間に戻りそれを抱える王子の姿は、とてもいい演出だと思いました。

    「白鳥の湖」は王子の愚かさでどんどん悪い方悪い方へ向かっていきます。ハッピーエンドで終わってしまうと、毎回「違うんじゃないか・・・」と思ってしまいます。そのため、僕は「白鳥の湖」はおとぎ話であってもバッドエンドで終わるべきだと思っています。

    リアム・スカーレットのインタビュー

    演出で振付のリアム・スカーレットの記事をまとめます。

    リアム・スカーレットは第1幕のパ・ド・トロワ(ベンノと王子の妹たちの踊り)、第2幕、第3幕の「黒鳥のパ・ド・ドゥ」、ナポリの踊りにはほとんど手を加えず、もともとあった振付を踏襲しています。

    「白鳥の湖」は王子の視点で描かれるストーリーです。全編にわたって登場する王子。リアム・スカーレットの考えは、「成長過程にある王子は、オデットに出会い自分に欠けている未熟さを埋めてくれる」と思っている(かなりの意訳です笑)。

    ロットバルトはオデットの王国を滅ぼし、次はジークフリート王子の王室を崩壊させようとしている、という設定のようです。

    まず、振付のリアム・スカーレットは、手始めに「白鳥の湖」の嫌な部分をリストアップしたと言っていました。なんとなくわかる気がします。「白鳥の湖」はどのバージョンもツッコミどこがあるんですよね。

    スカーレット版はいろいろなバージョンに影響を受けています。その分独自性が弱く感じてしまいました。

    ロイヤルバレエ団のメイキング映像

    現在こちらの動画は公開停止になってしまいました。というのも2020年現在、振付のリアム・スカーレットがセクハラの疑惑で職務停止となっているためです。


    Why The Royal Ballet love dancing Swan Lake

    【気になる部分の抜粋】

    「白鳥の湖」の初演は現在のように成功したわけではありませんでした。でも今では発祥の地ロシアでも評価されています。現在、さまざまな振付家が、それぞれの「白鳥の湖」を創っています。

    オデットとオディールは正反対のキャラクターです。しなやかなオデットにくらべ、エネルギーに満ちあふれるオディールは王子を操ろうとします。オデットとオディールの振付はとても似ているのですが、アクセントの取り方がまったく違うためぜんぜん違う振付のように感じます。

    リアム・スカーレットのリハーサルは、ダンサーにとってとても明確でわかりやすかったそうです。ダンサーは振付だけでなく、目線の動き、眉の動きの意味ですら理解する必要がある、と語っています。チャイコフスキーの音楽から着想をえて、まずはキャラクター像を深堀りし、おとぎ話から現実味あふれるキャラクターにしていきます。

    「白鳥の湖」の制作には3年かかったそうです。この映像では舞台稽古の段階まできています。30年ぶりの改訂ということもあり重圧を感じているようです。責任を感じるとともに、新たなロイヤル・バレエの「白鳥の湖」に関わることができたことをとても光栄に思う、と語っています。

    そして、ケヴィン・オヘア監督とリアム・スカーレットは群舞の白鳥をチュチュに戻したいと願っていたそうです。白鳥たちのチュチュはとても美しく、洗練され、形がパリっとしています。これは僕も大賛成です。

    ということで今回は英国ロイヤルバレエ団のスカーレット版「白鳥の湖」の内容紹介でした。

    ありがとうございました!